“職人らしさ”だけでは成り立たない。50人以上を相手に指揮を取る「空間のアートディレクター」の仕事

“職人らしさ”だけでは成り立たない。50人以上を相手に指揮を取る「空間のアートディレクター」の仕事

フリーランスのお仕事

フリーランスとは一概に言っても、働き方は十人十色。

今回は、空間のアートディレクターとして働くひらつさんに、お話を伺いました。

通常アートディレクターは、ポスターや広告などのビジュアル制作を担う仕事ですが、空間のアートディレクターは、個人の結婚式の空間装飾を担ったり、CMやMVの空間や小物のスタイリングをしたりと、「モノ・ヒト・コト」を「空間」と捉えてさまざまなデザイン監督をするのだそう。

「いいものを作る力」だけでは成り立たないという空間のアートディレクター。その詳しい仕事内容や、やりがいなどを聞いてみました!

空間のアートディレクター

ひらつ

ひらつさん

多摩美術大学テキスタイルデザイン専攻を卒業後、株式会社CRAZYに新卒入社。空間アートディレクターとして5年勤務したのち、独立。クリエイティブディレクターとして空間やプロダクトの企画開発デザインを行う。「あなたがあなたの感性を信じ、愛し続けられるせかいを作る」ために日々想いにふれ、どのように伝え広げるかをデザインし、形にしている。

お仕事詳細

フリーランス_空間のアートディレクター2

Q1. 空間のアートディレクター
ってどんな仕事?

アートディレクションにもいろいろな種類がありますが、空間のアートディレクションは、インテリアのコーディネートや、おうちの壁や床の内装設計、ドラマや映像作品の舞台作りなどを行います。

建築的な部分だけでなく、そこにあるモノや、役者さんが使う小道具なども一緒に考え、空間をデザインしていくのが、空間のアートディレクターです。

企業さまとお仕事をするときもあれば、個人のお客さまと空間を作ることもあります。

Q2. 今までその仕事で
どんなことをやってきたの?

私の原点は、ウェディングのオリジナル空間を作るアートディレクションです。オーダーメイドウェディングのプロデュース事業を手掛ける株式会社CRAZYに新卒入社し、5年間ほど働いていました。

ウェディング空間のアートディレクションでは、新郎新婦お2人の話を聞き、まずコンセプトを作ります。そのコンセプトを、式場に置くお花や、お客さまの目の前に来る席札などを通じてお客さまに感じてもらうにはどうしたらいいかを考えていました。

「結婚式という1日を作る」ようなお仕事を、ずっとやっていましたね。

そんな経験を活かし、独立してからはウェディングに限らず、舞台や個人の住宅など、いろいろな空間に関わっています。

モノやヒト、コトなど、いろいろなことが合わさってできるのが、「空間」なんです。

Q3. 空間のアートディレクターの
面白みややりがいとは?

これはアートディレクション業界全般に言えることですが、「何者にでもなれる」のが1番楽しいところだと思っています。

お客さまは十人十色だからこそ、一人ひとりに寄り添うために、さまざまな文化や価値観を学びながら日々成長できる業界です。

私の場合、今まで興味がなかったことも、お客さまからお話を聞くことで、すごく好きになれたりとか。

キャンプ空間のアートディレクションの仕事を通じて専門知識をたくさん学んだときに、「今までキャンプには行ったことがなかったけど、行ってみようかな」と思えたこともあります。

今まで興味がなかったことにも興味を持ち、一緒にものづくりができるところが、空間を作ることの面白さだと思っています。

Q4. 実際の報酬はどのくらい?

本当にピンキリではありますが、どのような空間を、どこから一緒に作るのかによって、価格は大きく変わってきます。

たとえば、住宅のアートディレクションを1から作ろうと思ったら、200万円以上はかかってきます。

一見高いように感じられますが、多いときは50人以上の人手を必要とするプロジェクトもあるので、自分の手取りで考えると、決してたくさんもらえるわけではありません。

でも、たくさんの人と共同でプロジェクトを進めることで、かなり大きなやりがいが得られるので、そこが楽しくもあるんです。

逆に、予算はないけど、このお金でどうにかできないか、というお客さまにもできる限り寄り添いたいと思っています。

たとえば、個人のお客さまでおうちのインテリアを変えたい場合、私は1部屋15万円からやらせてもらっています。

その仕事ができるようになるまで

フリーランス_空間のアートディレクター3

Q5. どうやってその仕事が
できるようになったの?

もともと、私の父親が大工をしていて、大きい空間を作ることに親しみがあったんですよね。当時は興味がなかったけれど、空間に対する想いが培われたのは、生い立ちのおかげかもしれません。

でも、「アートディレクターって面白い!」と本気で思ったのは、新卒で株式会社CRAZYに入社したとき。

当時は、大学在学中にテキスタイルを専攻していたこともあり、今とは全然違う分野を扱っていました。

そこから、もっといろいろなスキルが使える職種かつ、今までやっていたテキスタイルのデザインスキルも活かせる分野を探すなかで、アートディレクションという仕事が自分にぴったりとハマったのを覚えています。

Q6. SNS経由で声がかかることも?
仕事の獲得方法は?

前職からご紹介していただくこともあるので、私は本当にまわりの人に恵まれているなぁと思うのですが、ほかにできることとして、 まずは「SNSでの発信を頑張る」ことが挙げられると思います。

私は、前職にいたときから独立することを決めていたので、ほかのアートディレクターに比べて Instagramを育てていたほうだとは思います。

実際に、独立してからは Instagram経由でお仕事をもらえることも多いです。特に空間は、写真に残しやすいし、意外とパイもそこまで大きくない。

以前の投稿は一部消してしまったのですが、なぜ今の仕事をするまでに至ったのか、空間を扱うってどんな仕事なのか、何が大変なのか…などについて投稿していましたね。

成果物として私の作った空間を好きと言ってくれる人だけでなく、「空間を作るまでの過程を見れるのがおもしろい」と言ってくれる人も多いです。

その仕事を目指す人へ

フリーランス_空間のアートディレクター4

Q7. その職種を目指すなら
まずは何をしたらいい?

まずは私にDMをください!と言いたいところなのですが…(笑)。

とにかく「場数」なんですよね。どの業界でも言えると思うのですが、経験してみないとわからない部分が多くあります。

空間のアートディレクションをやりたいと思ったら、3つのステップを踏んでいくといいと思います。

Step1

どのようなジャンルの空間を手掛けたいのかを決めること。

私のように、いろいろな空間を扱っている人はちょっと特殊ですが、建築やインテリアもあれば、舞台現場のプロップ(演劇や映画、舞台の上演・撮影に使われる小道具)を専門に扱っている人もいます。まずは門を叩きまくることから始めてほしいです。

Step2

とにかく場数を踏むこと。私はこれまでに、500現場以上は制作していると思います。大きくても小さくてもいいので、とにかく「空間を作る」という仕事をやりまくる。

そうすると、200件目あたりから徐々に掴めてくるので、仕事をこなしつつInstagramでの発信を頑張る。自分が何のプロフェッショナルで生きていきたいかを築いていくフェーズです。

Step3

独立をすること。会社のなかで働くことと個人で働くことはまったく違うので、仲間の集め方やお金の管理などを試行錯誤しながら、自分が楽しいと思える仕事を取っていきます。

私のように、まずは会社員で、とは言わないですが、フリーで始める場合、「一緒にやりたいです!」と言いまくるのが得策だと思います。

Q8. 空間のアートディレクターに
必要なスキルは?

「アートディレクター」という名前からもわかるように、やっぱり「ディレクター力」が大事ですね。大前提として、お客さまが何を望んでいるかを汲み取れる、傾聴力と思考力は必要。

あとは、その希望をデザインとして昇華させるデザインの基礎力と応用力も大切です。

それらを培うためには、やっぱり経験が必要です。

いろんな趣味の人がいるからこそ、どこかに偏るとファンが付かなくなってしまう。引き出しを増やして、いろんな人に寄り添えることが、大切だと思っています。

また、この仕事は大勢の人と作ることが醍醐味ではありますが、だからこそコミュニケーション能力がとても重要です。

今どういうふうに作っていて、どんなふうに進行しているのかを、全体的に見ながらみんなの監督をしていかなければいけません。

いいものを作れる力があることは、職人らしくはありますが、空間のアートディレクションに必要な力はそれだけではない。「みんなで作る」ことを大切にできるディレクターでありたいのなら、総合的なディレクター力は大切にしてほしいと思います。

Q9. どんな本、
どんなサイトがおすすめ?

空間のアートディレクターになりたいなら、Pinterestや Instagramでの情報収集はとても大事だと思います。

自分の好きなテイストだけではなく、世の中では今何がトレンドで、みんなは何に注目してるのかを、つねに察知するようにしています。

あと、私が好きなことでもありますが、住宅街をお散歩をするのもいいですよ。「どこでどういう人が生活してるのかな」「この建築はどうやって作られてるのかな」と感じながら歩いてみる。

高級住宅街に行くのも好きだし、逆に雑多な繁華街に行くのも好きです。建築だけでなく、そこにいる人のファッションなど、つねにまわりに目を向けて情報をキャッチしていくのは、楽しいしオススメです。

いろいろなものを目で盗んで、自分なりに昇華していくことを、どれだけ高速でできるかもアートディレクターに必要なことだと思っています。

メッセージ

メッセージの画像

空間のアートディレクターは、いろいろな現場に行き、たくさんの人と関わるので、体力的にも精神的にも強くないといけない職業です。

でも、「大変さと幸せ度合いはイコール」。大変なほどみんなが助けてくれて、いろんな人と一緒に作ることを楽しめるし、大きい空間であればあるほど、いろんな人に見てもらえます。

これから空間のアートディレクターを目指す方とは、ぜひぜひ一緒にやりたいと思っているので、とにかく現場をたくさん経験して、自分なりの表現を習得してほしいです。一緒に仕事ができる日を、楽しみに待っています!

いかがだったでしょうか?
今回は、ひらつさんに「空間のアートディレクター」というお仕事について聞いてみました!
あなたの今日もtoiroな1日にしませんか?